運命というものに

逆らわないで

でも 囚われないで

どんな風に過ごすのかは

そのヒト自身が決める事





ただ 運命は重なる事もある。

こうしてかれらは 此処に居る。




これは彼らの

大事な一日










朝。
起きた時の朝日が差し込む光はまぶしい。
くらくらとほんの少しだけ目が眩む。
それによって、体はふらふらと横に揺る。

「あー・・・」
切原はうなった。
朝にはとことん弱い。
でも、今日は休み。

そして、外は真っ白雪の世界。
「・・・えー・・・」
カーテンを開いて第一声がこれ。
まぶしい白い光にまたも目が眩む。
「・・・雪だー・・・」
嘘じゃないよな、と言わんばかりに目を擦った。
だが、目の前に広がっている白い世界は消える訳無い。
何処に行くでもなく、ただそこには白い世界。
「あっ・・・!そういやー今日は・・・」
切原はたった今大切な事を思い出した。
すぐ傍にあった携帯を手にし、メールを開く。
ディスプレイには、『伊武深司』、『千石清純』、『不二裕太』
それから、『芥川ジロー』と『越前リョーマ』の名前。
横にある数字は、それらが着信した時間を表わしている。
「・・・・・・へへっ。」
切原はそれらを確認し、嬉しそうに笑った。
今日この日は何故か6人が集まれる日。
6人それぞれ学校は全く違うが、何故か妙に仲が良い。
事ある行事の度に集まっている。

時計を見た。
時間はまだある。急げば電車にも間に合う。
待ち合わせまで、あと2時間。
この雪の中だ。
急げば2時間足らずでつくだろう。
「母さん!俺行って来るから!」
「気をつけなさいよー」
「へーい!」
そして、切原はそのまま飛び出した。






時間はまだある。
伊武は布団の中からのそりと這い出した。
携帯のメールを確認し、着替える。
朝ご飯は取らない。あまりお腹が減っていない。
親はいない。妹たちは多分まだ寝ている。
伊武は妹たちを起こさないようにそっと一階へ降りた。
リビングへ行くと、妹たちの朝ご飯を確認する。
それは、いつも通りの行動だった。
朝ご飯が充分にあるのを確認すると、ほっとする。
妹たちの分が無かったりすると、伊武が作らなくてはならない。
そのおかげで、伊武の休日の起床は8時よりも前。
まだまだ時間がある。たっぷりある。
伊武はソファーに座ると、昨夜読んでいた本の続きを読み始めた。

それに熱中するのに、それほど時間はかから無かった。


暫らく本を読んで、伊武はふと顔を上げた。
時間はあと少し。
ゆっくりと立ち上がると、妹たちを起こしに上へと向かう。
そして、寝起きの悪い妹たちが起きると、朝ご飯をしっかり食べるように念を押して、
「いってきます」
家を出かけていった。







「リョーマさーん?起きてますかー?」
下から聞こえてくる声は従姉弟の奈々子さん。
「大丈夫、起きてるよ」
それだけ言うと、安心したのか奈々子さんの声はしなくなった。
ふと、足元で、ほあらーと猫の声。
「カルピン?」
越前は軽くその猫を抱き上げる。
「今日はお前、着いてきちゃ駄目だからな。」
念を押すように、言い聞かせるようにそういう。
猫はまた、ほあらーとわかったのかそれともわかってないのか気の抜けるような声で鳴いた。
越前は苦笑して、仕方ないので部屋にカルピンを置いて下へ行く。
そのあとを、カルピンも着いて来た。

「おはよう、リョーマさん。」
「おはよ」
ほあらーとカルピンが鳴いた。
「よぉ、青少年。休日にしちゃー早いじゃねぇか。あの・・・赤也くんだっけか?またデートかぁ?」
越前の父親・南次郎が悪戯交じりに聞いた。
「今日は・・・」
「んん?何か有ったのかぁ?」
興味津々にそう聞いてくる南次郎に、越前はあからさまにウザそうな顔をする。
「まっ、頑張れよー」
南次郎は肩を竦め、そう言った。

越前はふと時計を見た。
待ち合わせ時間まであと1時間ほど。
まだ、まだある。
でも、もしかすると皆、15分前には来ているかもしれない。
「俺、朝飯いらない。」
「あら、いいんですか?」
奈々子さんはそういうが、越前は首を振る。
「わかりました。気をつけていってきてくださいね。雪も降っていたようですから。」
にっこりと笑顔でそう言った。
「行ってきます」
そう一言だけ言うと、カルピンがほあら〜とまた鳴いた。








「ん〜!良い朝っ!こんな日は良い日になるよねぇ〜」
そう言って伸びをしたのは、千石。
「なーにしてんのよ!あんた、今日深司クンに会えるーとか何とか言ってなかった?」
「あぁ、あれ?まだあと1時間ぐらいあんの!」
千石は姉に向かって軽く舌を出した。
「まー!あんたって奴は!深司くんだって、15分前には着てるかもしれないでしょ?」
「ぶぅ〜・・・」
千石の姉は全く・・と呟いて、その後、糸が切れたかのように笑い出した。
千石も、全く同様。
それは何時もの、千石姉弟の様子。
いっつもこんな感じなものだから、両親は不安なんて物は全く感じていない。
寧ろ、一緒になって笑っている。
「あんたって奴は・・・あはは・・・ねぇ・・・ほらっ、そろそろ行きなさいよ!」
「じゃあ、お言葉に甘えて行かせて貰いまーっす!」
千石は笑いながら、自分の部屋へと一度戻っていく。
姉はその背を見送る。
「・・キヨも成長したわねぇ・・・。男の子だから当り前かもしれないけど」
母親がそう呟いた。

「えっと・・・」
千石は携帯を開いた。
メールが着ていた。
送信者は、『伊武深司』。
内容は、『もう出ましたか?』だけ。
件名は、無い。
千石は慌てる風でもなく返す。
「・・・よしっ。俺もいこうかな。」
メール送信が完了すると、千石は財布等を持って部屋を出て行った。

「あれ、清純、まだ行ってなかったの?」
玄関で靴を履いていると、姉が来た。
「うん、今行くとこ」
「あっそ。行ってらっしゃい」
素っ気無く返されたが、姉の顔は満面の笑み。
「んじゃ、行ってくるねー。」

そう言って外に出た千石は、真っ白な世界に先ず驚いた。









「おや、裕太クン。そう言えば今日はどこかへ行くとおっしゃってましたね。」
裕太が寮のロビーで公衆電話を切った時、観月が裕太に声をかけた。
「あ、観月さん・・・。」
裕太は少し驚き、観月と向き合う。
「どこへお行きになるのですか?」
「あ、ジローさんたちとちょっと・・・」
「ジロー・・・芥川君ですね?」
観月の表情がほんの少し変わった。
それに気付かず、裕太は続ける。
「はい!あと・・・深司と、千石さんと、越前と、赤也です。」
その名前を出すと、観月の表情がさらに変わった。
今度は、優しそうな表情に。
「なら安心ですね。気をつけて行ってきてください。」
「は?・・・はぁ・・・」
何に安心したのか、裕太には理解し難かった。
「雪が降っていたようなので、転ばないように気をつけるんですよ」
観月はそう言った。
外面では『ありがとうございます』と言ったが、内面では『子供じゃないんだけどな・・・』
などと過保護な彼に少々困った感じだった。
「ところで、今の電話は誰だったんです?」
先程のそれで少々機嫌が良くなった観月に、兄貴でしたなどと言ったらどれほどまでに落ちるだろう。
そう思うと、ホントの事はいえなくなっていた。
「あ・・・えと、深司・・・デス」
「そうですか。」
観月は嘘に気付く事無く、そして機嫌よく去って行った。
裕太はほっと胸を撫で下ろした。

「あれー?裕太、どっか行くだーね?」
そう声かけてきたのは柳沢。と、隣に居るのは木更津。
「あ、ハイ!」
「じゃあ、気をつけていくだーね。雪がほんの少しだけど積もってるだーね。」
特徴のある語尾が、どうしても耳から離れない。
「は、はい・・・」
思わず苦笑してしまっていた。


裕太は寮からとりあえず出た。
そして、先ず時間を確認した。
芥川との約束まであと5分。
急がなければ、芥川は待つことになるかもしれない。
そう思い、裕太は走り始めた。





裕太が走っている頃、芥川は既に自分の家を出てのんびりと歩いていた。
何となく、誰に誘われたのかを思い出していた。

先ず、一番最初に言い出したのは切原らしい。
そこで、切原は事ある行事の時にするようにした。
切原は友達だと言う事で伊武を誘い、偶然(千石談)そこにいた千石が切原が居るという事で越前に連絡し、
伊武は友達だと言う事で裕太に連絡し、裕太は芥川に連絡し、そうして6人で遊ぶようになったのだ。
それからは6人で遊ぶ事は月に1,2度。

(んー・・・寒くなったなぁ・・・)
芥川は歩きながら、ブル、と体を震わせた。
マフラーをしなくては、もう既に寒くなっていた。
雪も降ったし、少し積もっている。
サク、サクと鳴る雪の音が気持ち良い。
手袋の中の手までも、冷えて冷たい。
(・・・もうユータ来てるかなぁ・・・。)
眠くは無いが、寒さで少し瞼が閉じかけている目を開き、
「よーし!走ろう!」
そう言って、駆け出した。


「あ・・・れ?ジローさん・・・まだ着てないかぁ・・・」
腕時計を見ると、時間は丁度。
そばに在った木にもたれると、何となくホッとする。
見上げると、裸んぼの木。
葉っぱは秋の間に落葉し、今は薄っすら雪が積もっている。
「・・・もうすぐクリスマスかぁ・・・」
そう呟いた。

その時、裕太は走ってくる誰かの足音に気付いた。
「ゆーたぁ!」
芥川だった。
「まった??」
「いえ。今着たばかりなんで。」
芥川はよかったーと言う。
そして、裕太の手を取ると、笑顔で言った。
「んじゃ、皆との待ち合わせの場所、いこっか!」


 







6人が集まり、学校も別な彼らが一緒に過ごす一日は

彼らには本当に楽しい一日で。

それがなければ、きっと今の彼らの関係・今の彼らは

きっと此処には居なかっただろう。

運命に逆らわずに

かと言って囚われずに

流されながら過ごしていたから

今の彼らがあるのだろう。