携帯がポケットの中から鳴り響いた。
携帯の画面を見た。相手の名前は千石清純。
とりあえず、通話ボタンを押した。
『深司クン?』
「・・・なんですか。」
名前を呼ばれ、返事をした。
『今度いつ空いてるかなってさ。もし空いてる時あれば、映画行かない?』
誘いだった。二人で映画にいこうというのだ。
「別に今日でもいいですけど・・・」
少し考えて、今日は予定が入ってないのに気付いた。
千石にそう答えると、少しも間を置かずに帰ってきた。
『マジッ!?俺ってラッキー♪じゃぁさ、一時に駅前。OK?』
「・・・・・・判りました、一時ですね」
一時の十分前。
「行ってきます・・・」
誰も居ない家に向かってそう言って、鍵を掛け、出かけていった。
本当に、ここまではいつも通りだった。
いつもと違ったのは、行く途中の道路、車に轢かれてしまいそうな猫がいて――――――。
Where're you・・・?
「遅いな〜・・・深司クン。」
一時を三十分回っていた。
いつもはこんなに遅れないのに、と千石は思う。
さらに五分たった。未だ来ない。
「・・・・・・・・・」
何か胸騒ぎがする。
鞄の中から携帯を取り出した。
深司の家へ、電話をかけた。
『ただいま、留守にしております。御用のある方は・・・・・・』
機械の声が流れた。とっくの前に出ているのだろう。
「どうしたんだろう・・・行ってみようかな・・・。」
だんだん不安が募る。
次の瞬間、千石は、深司の家の方向へと走り出した。
走っていた時、急に携帯の着信音が鳴りはじめた。
驚き、取り出してみると相手の名前に『伊武 深司』。
千石はホッとした。
だがそれも束の間だった。
「もしもし、伊武クン?」
「あ・・・、すいません。病院の者です。伊武君の携帯から、連絡させて頂いているのです・・・。」
まだ慣れていない、若い人だった。
電話の内容は、深司が事故に遭ってしまった事、それから重態で未だ意識が回復していない事。
「もし宜しければ、こちらに伺って下されば・・・。」
「わかりました、行かせてもらいます。連絡ありがとうございました」
元気は失われ、絶望のような声で言った。
「病室は・・・・・・」
コンコン
病室のドアを叩く音が聞こえた。
「はい・・・」
病室の中にいたのは、ベッドに横たわっている深司と、左目が前髪で隠れている少年。
左目が隠れている少年は、叩かれたドアを開け、人を病室内へ通した。
「神尾クン・・・ずっといたの?」
「ハイ・・・始めは深司の両親もいたけど、俺に任せて帰ったんです。」
神尾と呼ばれた左目が前髪で隠れている少年は、寂しそうに答えた。
神尾の目の前にいるオレンジ色の髪で、一つ年上の少年――千石は、顔を下に向けた。
「ゴメンね、俺が深司クンのこと、誘わなければこんな事にならなかったのに・・・。ゴメンね」
「あ、千石さん。深司に助けられた猫、無事だったって。」
千石は驚いて顔を上げた。
「・・・・・・猫?」
「あ、聞いてなかったんですね。深司、茶色の猫が轢かれそうになってて、それを助けようとしたらしいんですよ。」
深司らしい、と付け足し、神尾は黙って深司の寝ている方を向いた。
長い長い沈黙の末、先に口を開いたのは神尾だった。
「・・・・・・千石さん、俺・・・・・・」
「・・・・・・あ、帰るの?」
「はい・・・。そろそろ、6時になるんで・・・もうすぐ、橘さんも来ると思います。俺、また明日来るんで・・・。」
「うん、わかった。俺はここに泊まらせてもらうよ」
神尾は、深司に向かってまた明日来るからな、と声をかけて病室を出て行った。
コンコン
病室を軽く叩く音がした。
千石はドアまで行き、ドアを開けた。
「千石・・・?」
「橘クン・・・。深司クン、待ってるよ。」
「深司、未だ起きないか・・・。」
橘と呼ばれた長身の男は椅子に座って、寂しそうにそう呟いた。
「・・・・・・神尾クンがさっきまでいたんだ。でも、時間があれだからって、帰った。」
「そうか・・・。深司・・・・・・、早く目を覚ますと良いな。」
千石は言葉で言わず、頷いた。
「そうだ、千石。・・・まだ晩飯食べてないだろ。」
橘は千石が神尾が居たという言葉から、晩ご飯を食べていない事を悟った。
「あ〜・・・、だいじょーぶだよ。橘クンこそまだなんじゃない?」
千石の言葉は、その通りだった。
「まぁ・・・そうだな。だが、お前も食べないと体壊すぞ。」
そういって橘は椅子から立ち上がり、病室を出ていこうとした。
「コンビニで何か買ってくる。何でもいいだろ?」
「・・・うん、ありがと。」
「深司クン・・・、起きてよ。」
二人しか居ない病室で、千石は呟いた。
NEXT