時は江戸。ある所に、『不動町』と言う町がありました。
そこはそう大きくはありません。そんなに小さくもありません。
『夢屋』と言うお菓子屋がありました。
杏と呼ばれる女の子が経営しています。
誰からも人気の多い店で、杏もその町では人気です。
そのお店では、アキラと呼ばれる子も働いています。
強気な女の子で、男勝りな性格です。
もう一人、女の子が居ます。
辰と呼ばれています。アキラとは違い、物静かな子です。
もちろん、そのお店では男の子も働いています。
鉄と雅也、京介(または京)と呼ばれています。
杏には、苗字がありました。
『橘』と言う苗字です。
これから、その地域周辺のお話しを致します。
その中にはいない、
ある少女の事をお話しましょう。
後から少女と『夢屋』の人たちは知り合う事になります。
月光
真暗で、辺りは殆ど何も見えない状態。
その周辺には橋があり、下には川が流れていて、夜の月をきらきら写している。
その橋に、一人だけ、ポツリと佇んでいた。
少女だった。
髪は黒く、肩ほどまで伸ばされていた。
だが、少女な筈なのに男の形をしていた。
腰には刀が吊られている。
静かに目を閉じ、橋に立っている。
突然、刃物が・・・ナイフが向かって投げられた。
少女はそれをあっという間に交す。
「・・・何だよ・・・」
少女は呟き、ナイフが投げられた方向へ走る。
そして、茂みの辺りを蹴ってみる。
「ぐっ!?」
男が居た。
まだ2,3人いるらしい。
どこにいるかは今蹴った男だけ。
他はどこにいるかわからなかった。
他の奴等は、立ち去ったらしい。
蹴りを入れた男も、逃がした。
少女は何事も無かったかのようにそこから去った。
「・・・ただいま、橘さん。・・・・・・またいましたよ。」
少女は少々粗末な家に入ると、何も見えない方向に向かい、そう言った。
言ったはいいが、答えは聞こえない。
寝ていたとして、その微かな寝息すら聞こえない。
少女は手探りで床に座り、橘と呼んだ相手がいる場所を探す。
「・・・悪い、な。見も知らずのお前に迷惑をかけちまって・・・」
「・・・いぇ。私が好きでやってるだけです。」
「・・・ならいいが・・・。」
橘と呼ばれた、声の質から考えれる、男は、疲れたような声を出す。
数日前。
少女は道の端で倒れている橘を見つけた。
この辺に来る人は珍しかったので、恐らく助けを求めてきたのだろうと。
そう思い、橘を助けた。
何があるとしても、少女は橘を助ける事に決めた。
例え、自分自身がどんな目に会おうとも。
橘は、怪我をしていた。
息も絶え絶えで、放って置いてしまえば死にそうだった。
2日3日、目を覚まさずとも、根気良く手当てをした。
そして、助けてから3日目。
橘は薄らと目を開いた。
途切れ途切れだが、話をするようになって、身の上も話し、何があったのかも全て話した。
自分が逃げてきた事。
妹がこの町にいると言うこと。
自分を助けたこの少女がどんな目に会うかわかったものじゃない、と言った事も。
それを承知して、少女はこうして橘を匿っている。
場所は変わって、『夢屋』。
やはり今日も大忙しで。
いろいろな人がお菓子を買いに来ている。
「大福3つ下さいな♪」
「大福3つですね。少々お待ちください」
丁寧な女の子、杏だ。
そのにっこりとした笑顔が、人気を呼ぶ。
その上、客への対処が良い事、お菓子が他の店よりも数倍おいしい等。
そう言ったことが、この店を繁盛させている。
日が沈みかけた頃、『夢屋』は閉まる。
杏が他に客がいないことを確認する。
ふと目に入った長椅子に、女の子が一人、座っている。
近づき、声をかけようとする。
「・・・・・・あら?寝てる・・・?」
女の子は壁に寄りかかり、静かに寝息を立てている。
「ね、大丈夫?」
優しく肩を叩き、起こそうとしてみる。
「ん・・・・・・」
だが、少女は起きようとしない。
「フゥ・・・しょうがないわね・・・。鉄くーん、ちょっと来てもらえる〜?」
杏は少女を起こさないように店の中に向かって言う。
「何だ?・・・・・・どうしたんだ・・・その子・・・」
鉄と呼ばれた『夢屋』で働く長身の男。
「ん〜・・・寝ちゃったみたいなの・・・。ここじゃ風邪引いちゃうから、中に入れてあげようと思って・・・」
鉄はタオルを巻いた頭を掻こうとして、止めた。
そして、少女の身体をそっと持ち上げ、店の中に入っていった。
「ありがとう。・・・・もう良いわよね・・。お店閉めなきゃ。」
もう一度周りを見渡し、杏も店の中に入っていった。
「しっかし・・・良く寝る子だなぁ・・・」
布団を敷き、そこにそっと少女を寝かせた後、その部屋から出て起こさないように部屋の外から見る。
「まぁまぁ。寝る子は育つって言うしさ。」
「こらこら、静かにしてあげなさいよ。夕ご飯が出来たらその子も起こしてあげるし。」
「はぁ〜い。あれ?そういえば、辰は?」
きょろきょろと辺りを見回す。
「辰は今、あたしと手伝ってくれてるのよ。アキちゃん達も見習いなさいよね。」
アキちゃん・・・もとい、アキラはぐっと詰まったような表情をする。
杏はそれを見てくすっと笑う。
「じゃねっ。出来たら呼ぶわ。」
そして、台所の方向へと消えていった。
「辰も良くやるよなぁ・・・。ここに来た時も、料理の腕前にはびびったからなぁ・・・」
「それからだよね。ここが繁盛し始めたの。辰が手作りしてるんだもんな♪」
「・・・それだからお前、杏ちゃんに辰を見習えって言われるんだろ。」
「うぅっ・・・」
再びアキラは何も言えなくなる。
「みんなー、出来たわよ〜。」
杏の声が台所の方向から聞こえる。
と同時に、アキラは一気にかけて行った。
「お・・おいおい・・・;」
鉄が苦笑してその後をゆっくりと追う。
そして、後を見て気付く。
「おい、京に雅也!?どさくさに紛れてお前らまで寝るんじゃねぇ!!」
やけに静かだと思っていたら、他の男二人は床に伏せて寝ていた。
そして、鉄はその二人を蹴り起こした。
「ぐッ・・・・・・」
「いてッ・・・」
うめくような声が聞こえ、二人はやっと身体を起こした。
「だってよ・・眠ぃんだよ・・・」
「ぅん・・・・・・・」
京介は目を擦りながら、その部屋を出る。
雅也は、ふらつく足を何とか保ちながら、ゆっくりと今日に続く。
「ぅッわ〜!すげぇ・・・これ、今日の残り??」
「うん・・・ちょっと少なかったけど、ね。それにさ、みんなよく働いてくれるしさ。」
辰が照れたように言う。
先程まで寝ていた二人も、あっという間に目を開く。
豪華、とまでは言えないが少なすぎる訳でもない。
それでもいつもよりはだいぶ多い。
いつも通り、自分の食べる物は自分で持っていく。
全員が持っていっても、一人分余っている。
鉄が、一人だけ戻ってきた。
そして、余った一人分を持って再び出る。
もといた部屋に戻ると、今の今まで寝ていた少女は起こされ、慌てて飛び起きた。
「あ、ぁわわっ!!ごっ、ごめんなさいです!!」
少女は慌てて飛び起きた拍子に、後ろにいたアキラにぶつかった。
「いてっ」「あぅっ・・・す、すみませんですっ」
杏はその様子を見てクスと笑った。
「ねぇ。あなた、名前なんていうの?」
「えっ、あ、僕、ですか?えっと、太一です。」
太一と名乗った少女は、ぺこりとお辞儀する。
「え、あなた、男の子?」
「えっ、ち、違うです。あの・・・お爺様から、男の子みたいな名前、付けられたです。」
やはり慌てたように言う。
「あたしは杏。ヨロシクね。それから・・・」
「アキラっ!杏ちゃんにはアキちゃんって呼ばれてるよ。」
「俺は鉄。それから、京介に雅也。」
「あ・・・僕は辰徳。辰って呼ばれてるよ。」
それぞれ自己紹介した。だが太一は覚えられないのかあたふたしている。
「ふふっ。覚えられなかったらしょうがないわよ。」
「あわわっ、すみませんです!あ・・・そうだ・・・。あの、僕、山吹町から来たですが・・・」
「「「「「「山吹町っ!?!?」」」」」」
6人ともがたんという勢いで立ち上がった。
太一は驚き、後にひっくり返りそうになる。
「隣町から?一人で?あの危ない道を??」
アキラが冷や汗をかきながら言った。
他の5人も、冷や汗をかいている。
「え、え?危ないですか?」
「ねぇ・・・太一君。何の用でこの町に来たの?」
「え・・・あの・・・、僕・・・イブ姫様に用事があるです。」
太一がしどろもどろに言う。
「・・・って、太一君・・・あなた・・・」
「僕・・・、山吹町の・・・」
「まさか・・・・・・壇姫っ!?」
「は、ハイです・・・。」
やっぱり、と言ったように杏が頭を抱え込む。
まさか、こんな間の悪いと気に・・・
「あのね、太一君。イブ姫は今、行方知らずなのよ・・・。」
「えっ・・・・・えぇぇ!?」
太一はその言葉を聞いた瞬間、涙目になった。
「そっ・・んなぁ・・・」
うるうると目を潤ませている。
「イブ姫はね、今行方が知れないのよ・・・。家出したって噂があるけど・・・。」
杏が(知らぬうちに)さらに太一を絶望に追い込む。
太一は着ていた服で目を拭いた。
「僕・・・お父様から頼まれたです。イブ姫様に一度お会いになりなさいって。」
「でも・・・一人で来させる事ないわよねぇ。よくこの道中無事に来れたと思うわ。」
杏が感心したようにそう言った。
「あ・・・忘れてたです・・・・・・・;」
「「「「「「へ?」」」」」」
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