「"は"って・・・え?・・・なに?」
鳳が聞いた。
「いや・・・その・・・」
アキラがどもった。
話すべきなのだろうが、言葉が出てこない。
そうこうしているうちに、手に持っていた深司からの手紙を若が奪い取った。
そして、差し込んでくる光に翳した。
「・・・・・・何だ、この穴は・・・」



月光・8



「時期に分るって・・・どういうこと?」
「そのまんまや。深入りせんでええ。」
深司は牢屋(部屋)の外にいる忍足と、小声で話している。
「・・・そう。それより、私の書いた手紙・・・気付いたかな」
「『早く氷帝城に来てくれ』か?誰か一人は頭が切れる奴、おるやろ」
「・・・だといいんだけど」
大丈夫や、忍足が短くそう言った。
それは、深司を安心させる為だけではなく、自分自身をも安心させるようにも聞こえた。
早く、愛するヒトを助けたいが為に。
「・・・ところで、武器とかある?」
「・・・はぁ?あるんやけど・・・何すんねや。」
「・・・・・・暴れたい。」
「は・・・」
深司はクスリと笑った。
「冗談だと思う?」
忍足は無意識のうちに縦に首を振る。
「冗談なんかじゃいよ。強くなくても弱くても、誰か来て私をここから出してくれたら、私・・・暴れるから。」
その目は決心に満ちた顔だった。
何を言って求められはしない、そう悟った。
「何や、大切なヒトでもおるんか?」
「・・・別に。ああ、ただ、私が此処に捕まってるって知ったら悲しむヒトが居るから。」
哀しそうな目。
よほど彼もしくは彼女を悲しませたくは無いらしい。
結局は、大切なヒトになるのだと深司は気付いた。
「・・・大切なヒト、見たいだね。」
「・・・・・・そか。何処のヒト?」
「・・・山吹・・・」
忍足は目を丸くした。
山吹と言えば、氷帝の榊と手を結んでいるような奴がいる。
ならばもう既にその彼か彼女には伝わっているのではないか?
「・・・伝わってると思うけどね。」
深司は軽く溜息をつき、天井を仰いで言った。
知っているのか、と忍足は内心驚いた。
そして知らないわけは無いと言う結果に辿り着いた。
深司もこれでも不動町の姫だ。
そして、山吹では・・・と忍足は思う。
「まさか、千石やなかろな?」
「ッ・・・」
深司ははっとして、忍足を見た。
「・・・・・・・ホンマかいな」
明らかな反応を見て呆れたように言った。
「・・・、別にー・・・。あぁ、それから、立海にもいるかな・・・。」
「立海?ほー・・・遠いのぉ・・・」
「そだね・・・」
深司は短くそう言うと天井を仰いだ。



「穴?」
「ああ。無数の穴が開いてる。」
「日吉、貸してみろ。」
橘が言った。
日吉は無言でそれを橘に渡す。そして、軽く睨むように見る。
「・・・・・・コレは・・・」
橘が呟いた。
「コレは文字になっているんじゃ・・・」
「え・・・でも・・・なんで?」
「大切な事でも書いてあるんだろう。ところで、アキラは何故この文字が読めた?」
橘が反対に聞いた。
「あ、それはですねー。杏ちゃんに習ったんですよー。」
杏は不安そうな表情は消し、笑いかけた。
「ええ、そうよ。お兄ちゃん、前教えてくれたでしょ?それをアキちゃんたちに教えてあげたのよ。」
橘はそれを聞いて感心した。

「あ・・・あのー・・・僕は・・・」

「あ!太一くん!」
杏が驚いて声を上げる。
「まだ起きていたの?」
「あ、はい。どうしてもイブ姫様のこと、気になって・・・」
太一は心配そうな顔をして言う。
その横には、亜久津がいた。
そして、太一は改めて杏をみて、
「僕、イブ姫様に会いに行くです。」
はっきりとそう言った。
「えっ!でも、太一くん・・・貴方・・・」
「氷帝城、だろ?どーせ、その手紙には『早く氷帝城に来てくれ』みたいな事書いてんじゃねーの?」
亜久津が言った。
その場にいる全員が、橘が手にしている手紙を見つめた。
「太一はコレでも俺が面倒見てんだ。足手まといになる事はねーよ」
「・・・なるほど。わかった。お前が言うのなら連れていこう。」
橘はほんの少し微笑み、言った。
「その前に、ここに残ってもらうのも必要だ。大人数で行ってもあれだからな。」
「兄さん、私は残るわ。辰も心配だし・・・私、そういう事した事は無いから。」
杏はすかさずそう言った。
そして、アキラにこう言った。
「兄さんはね、氷帝城に攻めるんですって。」
「・・・えっ、えぇぇ?」
やはり何も判っていなかったらしいアキラは、目を見開いて驚いた。
口をパクパク動かしている。
「アキちゃん、行く?」
「え・・・えぇ・・・?俺?い、行かない!」
やっとの事でそう答えた。
目を白黒させている。
「だと思った。」
杏がにっこり笑って短く言った。
そして、
「じゃあ、店番とか手伝ってもらわなくちゃねー。」
再び言った。

その隣の部屋では、鉄・京介・雅也の三人が話をしていた。
「俺・・・杏ちゃんの手伝いちゃんとやんなきゃなー・・・」
「そうだな、俺も・・・何かとサボってばっかだったし・・・」
「・・・辰だけだったんじゃねぇ?まともに手伝ってたの・・・」
鉄が言うと、三人はすぐ横で寝ている辰を見た。
そして、今までを振り返っていた。
「・・・俺、杏ちゃんに頼まれた事・・最後までやろう。」
京介が言った。
雅也もしっかりと頷く。
「・・・よし、言ったな?それ、杏ちゃんに言ってくるぞ?お前等が今後サボったりしないように・・・」
鉄が言った。
言ったが、二人とも既に聞いていなかった。

「で、いついくか・・・だが」
「俺たちは明日にでも出発したいです。氷帝城で、俺たちが城を勝手に抜けた事がばれたりしてたら・・・」
鳳が言った。
日吉は何も言わず、空を見つめている。
「・・・そうか。ならば、氷帝城の方で会ったほうがいいな。」
橘は溜息を吐きつつ言った。
「あの、僕も鳳さんたちと一緒に行くです。」
太一が言った。
その言葉にその場に居る殆どは驚いて太一を見た。
亜久津だけは太一が言った事に、驚きもせず橘を見ている。
「僕、イブ姫様に会って、今お話してること、お伝えするです。」
続いて言った。
その眼は、もう何を言っても引きはしないという、決心している眼だった。
「それに、僕が着いていけば鳳さんも日吉さんも疑われる事は無いです。」
「・・・壇姫・・・」
杏は心配そうに呟いた。
少々危険かもしれないが、その方がきっと確実だろう。
「・・・わかりました。イブ姫様が居られる部屋の隣に連れて行かれると思います。
ですから・・・そこを監視している忍足という方にお話してください。」
「わかりましたです。」
太一はしっかりと頷いた。
亜久津は何も言わなかった。
ただ、鋭い、痛いほどの視線を誰ともなく向けている。




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まだ山吹町の息子さん方は出てません。名前だけ。
あー・・・。どうしよう(何)