「アキラの言った通り・・・、か。」
深司のことを全て聞いた橘は、ふぅ、と小さく息を吐いた。
「それで、これをイブ姫様から預かりました。」
そういって、若は手紙を手渡す。
月光・7
朝。
深司はふと目を覚ました。
まだ太陽が上がりきっていない時間帯。
だが、この時間は深司がいつも起きる時間だ。
「・・・・・・身に付いたのかな・・・」
独り言のようにぼやき、辺りを見回した。
そして、今更窓がついていない事を知った。
外の様子すら、見る事ができない。
「よぉ、深司。よぉ眠れたか?」
「ん・・・まぁ・・・」
忍足は何でもないように深司に話し掛ける。
深司もまた、何でもないようにそれに応えた。
「・・・若は?」
「そう早く戻るわけないやろ?・・・まだや。」
「・・・・・・・・・・・」
深司は、若に連れて来られる前まで会話をしていた、橘の事が気になっていた。
まだ、完全には傷が治っていない。
無理に動きでもすれば、また傷口が開いてしまうであろう。
忍足は、沈んだ深司の顔を見た。
そして、言った。
「なんや。想い人でも居るん?」
深司ははっとする。
--想い人?
多分そうではない。
ただ、傷の事が気になっていることだ。
「・・・何や、違うようやな。」
そう言って、フッと笑う。
「・・・深司は、姫やろ?日吉・・・若居るやろ。アイツも元々はここの息子やったんやで。
ただな、日吉の両親は暗殺されてもーたし・・・ま、全部榊やけど。」
急にそんな事を話し始めた忍足を見る。
内容に、興味が無い訳でない。寧ろ、あった。
「・・・若が?」
「そ。まーそれ言ったら岳人や宍戸もそやな。血は繋がっとらんが一応姉弟や。」
「・・・・・・じゃぁ、若の大切な人って・・・その人たち?」
「いや、それはあらへん。俺は岳人が好きやし、宍戸は鳳とやし。」
宍戸と鳳は妙に仲が良い、と付け足す。
深司は軽く首を傾げた。
--じゃあ誰?
そう言う結果に辿り着いた。
「・・・ま、時期にわかるやろ。」
苦笑して、忍足は言った。
不動町。
夢屋は唐突に一日だけ店を閉めることにした。
夢屋のお菓子類を楽しみに来た者は、渋々帰っていく。
「あ、辰。日吉さんたちに何か御出ししないと・・・」
「・・・あ、うん。」
辰はすっかり疲れた様子で返事をする。
「・・・・辰、今日は休んでもいいのよ?」
「ううん。大丈夫だから・・・」
青白くなった顔で
にこっと笑顔を返す。
そして、先程杏が言った通り何かを出さないと、と奥へ入っていった。
その足取りは、妙にふら付いていた。
がたん。
「っ!?」
「何だ!?」
急に何かが倒れる音がした。
その音に反応して、鳳はさっさと音が下方向へとかける。
「杏ちゃん?」「辰!?」
音がした部屋へ着くと、杏が辰を呆然と見ている。
そして、慌て始める。
「誰か、辰を部屋まで運んで!」
その声に、鳳は咄嗟に反応し、辰の身体を軽々と持ち上げた。
そして、あくまで冷静に対処する。
「辰ちゃんの部屋、どこ?」
辰の顔は真っ青だった。
額に手を当てるが、熱は無いらしく正常だ。
「多分、頑張りすぎたんだろうね。」
鳳が言った。
「・・・うん。私・・・」
「杏、お前のせいじゃないだろう。」
不安げに呟く杏に、橘が優しく言う。
「・・・ありがとう。」
「深司・・・イブ姫、大丈夫なのかよ?」
アキラが心配そうに言う。
呟いただけであり、答えは求めていなかった。
若の持ってきた、深司からの文をみた。
その紙にはたった一文だけ。
『この手紙を持っている人を信用して。』
アキラには、何を意味しているのかが良くわからなかった。
大きな紙に、一文だけ。
紙の中心に書いているわけではなく、上の方に書いてあるだけ。
何気なく紙の裏を手で触ると、穴を開けたような跡がある。
「?」
その穴は無数に開いていて、とても小さく、気をつけなければわからないような物だ。
指でそっとなぞってみた。
「・・・・・・"は"?」
思わず声に出した。
その場にいた全員が、アキラに顔を向けた。
「・・・・・・・・・・;」
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