「・・・・・・岳人・・・」
誰にも聞こえないような、小さな声で呟く。
忍足は、何も無い天井を見つめる。

忍足にとって、向日姫・・・通称・岳人は、大切な人。
この城では、榊が絶対権を持つ。
よって、榊には当然逆らえない。
逆らうとしたら、命を無くすと同じ事。

だが、若はそれと似たようなことを計画しつつある。

榊に逆らう。
そして、大切な人を救う。


前に、忍足は若から聞いた事があった。
深司の事を。





月光・6





「忍足さん、不動町のイブ姫って知ってますよね?」
「・・・あぁ、榊に狙われとる姫さんの一人やろ。」
深司を捕えるために、何度か若は不動町に足を運んでいた。
だが、何度行っても深司の噂は家出した等ばかり。
「俺・・・この前山に囲まれた場所まで行ったんです。」
若は、つい最近の事を言う。
「何人か連れて行ったんですが・・・髪の毛が肩位までの少女に腹やら蹴られて・・・」
「・・・・・・・・こないだ手当てされとったな・・・」
忍足が見た若の部下数人は、手足に青いアザをつくっていた。
相当喧嘩のような事には強いのだろう。
「・・・それがどないしたん?」
「いや・・・その娘がイブ姫じゃないかと・・・」
「・・・・・・・・・・・・・喧嘩強い?」
「・・・・・・」
無言で頷く。
「・・・・・・頑張りや。」


若の予想は当っていて。
数日後には深司――イブ姫――を、捕えて来た。
榊はぐったりしている深司見て、他の者に牢屋と言う名の部屋に連れて行かせた。











「・・・・・岳人・・・・」
また、呟いた。
溜息を吐き、立ち上がる。
今自分が見張っている牢屋には、深司が静かに寝ている。
一晩中起きていて、疲れてしまったのだろう。
そっと微笑み、深司の頭を撫でる。
「んぅ・・・・・」
深司はか細い声を出し、寝返りをうとうとした。
「・・・・・・さん・・・」
「・・・・・何や?」
深司は何か呟いたが、忍足には聞き取れなかった。

それからは、朝まで何も呟かなくなった。





「若、不動町。」
「・・・わかっている。」
何度も足を運んでいる為、どこに何があるのかも大体わかっている。
ただ、あまり足を踏み入れたくは無かった。




自分の愛しい人を、自ら捕えてしまった土地だから。





「夢屋、か・・・。どこにあるんだろな〜・・・」
「・・・さぁな・・・。その辺の奴にでも聞けばわかるんじゃないか。」
「そっか。あっ・・・あの人とかは?」
そう言って、鳳は一人の少女を指差した。

「あの、夢屋ってどこにあるか知ってますか?」
「・・・へ?僕、ですか?」
自分より10cmほど小さい少女。
目の下に、青紫色のクマができている。
「はい。夢屋・・・・・・って、貴方は男の子?!」
「あっ・・・違います・・前からの癖なもんで・・・。あ、夢屋だったら僕が働いているお店の名前です。」
少女――辰は、にっこりと微笑んで言った。
「えっ・・・ホント!?ほら、若!凄い偶然!!」
鳳は喜びのあまり、若に叫んでいた。
周りから、痛い視線を送られているのに鳳は気づかなかった。
「・・・お前、うるさい・・・」
頭を抱え、一言。
「悪いが、着いて行かせてもらっても良いか?」
「はい。あ・・・でも、お店のとこに、馬を繋げるところは・・・・・」


結局、その辺にあった小さな信用できそうな家に馬を預け、辰と共に『夢屋』へ向かった。
「鳳さんたちは、どこから来たんですか?」
辰がにこりとして聞く。
「俺たち?えっと・・・氷帝町、かな。」
若は何も言わずに、二人の後ろからついていくだけ。
「えっ・・・・・・ひょう、てい・・・・?」
思わず、持っていた物を落としそうになる。
慌てて持ち直し、困ったような、焦りのような表情になった。
「氷、帝って・・・・まさか・・・・・・」
「え??」
「あのっ、深司さんっていう人しりませんか!?」
辰は冷や汗のような物を額に浮かべ、泣きそうな表情で聞く。
「・・・・・・っ?!」
辰の言葉に、鳳ではなく若が驚く。
深司という人がイブ姫だと言う事を、知っていたから。
「ねぇ、若。知ってる・・・・・・」
鳳は、若が何時に無く驚きという表情を表に出しているのがわかった。
「ねぇ、辰ちゃん、だっけ?・・・若が、何か知っているみたい。」


「・・・・・・深司、は・・・イブ姫様の事ですね?」


「・・・・・・ッ!」
辰の表情も変わる。
同時に、鳳の顔も驚きへと変わる。
「・・・やっぱり、知ってるんですね・・・。」
「・・・・・・・あぁ。だから、夢屋に用がある。」
「・・・・・・・・・わかりました。急いだ方が良い用事なのでしょう?」
辰は平常を取り戻し、再び笑顔で言った。
だが、それには陰りが少しだけ見えていた。



「ここです。少し、待っててください。」
夢屋という暖簾は無いから、今は営業していないのがわかる。
「・・・ホント、偶然って重なるんだね・・・。」
鳳が何気なく呟いた。

暫らくして、辰が出てくる。
そして、二人を中へと案内した。





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