「さらわれた・・・って・・・」
いくら何でも、と杏は言葉を続ける。
「そんな・・・でも・・・、ホントだったら・・僕も・・・?」
太一が肩を震わせながら、声を震わせながら言う。
そして、亜久津の服をそっと握る。
月光・5
「落ち着け、太一。とりあえず、イブ姫から何か来るかもしれん。・・・待とう。」
「でもっ・・・・・・深司はっ・・・」
「アキラ・・・・・・落ち着いてよ・・・」
話を全て聞いた辰も、青ざめたような顔で言う。
「・・・・・・・んぅ・・・・、・・・?」
重くなった瞼が、ゆっくりと上へ上がる。
そして、眼にヒカリが入った。
そんな、暖かなヒカリじゃない。
目の前に広がるは、ただの何も無い部屋。
広くもなく、かといって狭くもない。
「・・・・・ッ・・・」
横たわっていた身体を起こすと、身体全体が痛む。
もう一度、周りを良く見た。
「・・・・・・どこ・・・ここ・・・」
見たことの無い部屋。
そう言えば、若とか言う男に後ろから口を塞がれた記憶がある。
だが、その後の記憶が曖昧だ。
曖昧と言うよりも、覚えていない。
「イブ姫様。お目覚めですか?」
どこからか、声がした。
聞き覚えがある声だ。
「・・・・・・若?」
「覚えててくれたんですね。」
「・・・・敬語なんて使わないで。私だって・・・」
゛いやなんだから゛。そう続けた。
「しかし・・・いや。わかった。貴女が望むならそうよう。」
戸惑うように口篭もった後、フッと諦めたように笑う。
そして、真剣な表情をして、深司に言う。
「イブ姫様。ここは氷帝の城の中。ここに、俺にとって大切な人が囚われている。
・・・どうにかして、誰かに知らせて助けたい。俺には知り合いがいない。
だから、貴女の知り合いに助けを求めさせてください。」
深司は一瞬、顰めた。
自分が捕らわれているのに、どうやって他の人に知らせれば良いのか。
「大丈夫です。この城で働いている多くは大切な人が囚われの身分になっています。」
「・・・・・・で、私に何をすれと?」
「俺が、上にばれないように城を出ます。だから、貴女にあなたの知り合いへの手紙のようなものを書いて欲しい。」
「・・・・・・・・わかった。あんたの代わりに、誰か私の見張りにつくことはあるの?」
深司がそう言った時、聞き覚えの無い声がした。
若を、呼んでいる。
「あ・・・・」
「何や、若。まだおったんか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・誰?」
自分たちが喋っている言葉とは違う、のんびりした声がした。
「忍足さん・・・。丁度よく来ましたね。今イブ姫様に頼んだ所ですよ。」
「ほな、ここ交代したらなアカンな。」
深司を見てにっこり微笑む。
何となくだが、気に食わなかった。
「ハイ、若。不動町の、何だっけ・・・あぁ、『夢屋』ってとこに届けて。」
そう言って、折りたたまれた紙を若に差し出す。
軽く頷き、それを受け取る。
「それじゃ、忍足さん、頼みましたよ。」
「ん、わかっとるて。」
そう言って、若はその場を走り去って行った。
「さー、何日掛かるんか。・・・そや、姫サン・・・って呼び辛いな・・・あんた、他に呼び方ないんか?」
「は?・・・・あぁ・・・、深司・・・。」
「深司かぁ・・・・宜しゅうな。俺は侑士や。忍足侑士。」
「・・・ん。」
浮かぬ顔をし、睨むでもなく忍足を見る。
そして、先程、若が言っていた事が気になっていたのに気が付いた。
「ねぇ、侑士の『大切なヒト』って・・誰?」
「・・・っ!?」
忍足は、思わず目を見張る。
「・・・そうか、若やな・・・。ん〜・・・深司、向日姫、知っとる?」
「あぁ・・・・・・でも、その人は・・急に姿を消したって・・・」
「・・・・・やっぱなぁ。そら嘘や。岳人・・・向日姫はこの城に居る。」
「え・・・・・・じゃあ・・まさか・・・宍戸、って人も・・・?」
深司の顔が、一気に青ざめた。
「・・・そっか。でも、何故誰も想い人を助けようとしないの?榊って人が・・・怖いの?」
「・・・・・・当っとる。でもな、アイツに逆らったら首がなくなるんや。・・・そないなことしたら、姫さんたちのこと・・・
助けようにも助けられへんやろ。自分が逝ってしもたらな・・・。」
深司は、青ざめた顔は治らずとも、少しは落ち着いたようだ。
だが、二人ともあまりに暗すぎる話に落ち込んだ。
暫らくの間、会話は無かった。
「あれ、若・・。何処かいくの?」
「!!!・・・・・何だ・・・長太郎か・・・。」
長太郎・・・鳳は、やけにゆっくりしながら若に近づいてきた。
「何だ、は無いだろ?・・・大事な事なら、俺も一緒に行くよ。」
「・・・結構危険な事だぞ。・・・榊に、逆らう事だ。」
「・・・良いに決まってんだろ。俺だって・・・宍戸さんを助けたい。それにさ、ホラ・・・俺たち二人で一緒に行くって・・・」
若は、鳳のその言葉を聞き、フッと笑った。
「わかってる・・・お前の事だ。駄目だと言ってもついて来るだろ?」
「・・・もちろん。」
二人はそのまま、静かに城を抜けて出していった。
しばらくしてその場に、遠くなっていく馬の駈けて行く音が響いていた。
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