また、この暗闇の中、一人で数人を追い払う為に、外に出た。
月光・4
いつも通り。
それでも―――今日、この日だけは何かが違っていた。
明らかに、いつもよりも人数が少なすぎる。
何か企んでいるのではないか。
そういうことさえ思わせる。
―――――――瞬間、
「・・・・ッ!?」
後から口を抑えられた。
気配さえ感じなかった。いや、気配は消されていた。
抵抗をしようとしたが、気配を消している相手は一人ではなかったらしい。
後から、手を抑えられる。
声を上げようにも、口を抑えられているせいで、くぐもった声しか出ない。
足で後ろを蹴ろうとする。
が、何かで縛られているのかと思うほど、思うように体を動かせない。
「すいません、イブ姫様。暫らくじっとしていてください。」
昨日の声・・・若の声が、耳元で聞こえた。
その声は、躊躇うような、迷った口調でもあった。
深司の意識は、そこで途切れた。
朝。
アキラは杏と太一、そして亜久津を連れて、深司の家へと向かっていた。
何故太一と亜久津がいるのか?
太一は不動町の見学も兼ねてついて来ると言う。
亜久津は太一の護衛という身柄。
そして、アキラの話す深司という少女が、もしかすると・・・などと考えたから。
その考えが浮んだのは、太一の父親が亜久津に話した少女と同じだったからだった。
「橘さ〜ん!深司〜〜!」
アキラは深司の家に着いた途端に、そう叫んだ。
「うるせぇよ・・・」
あまりの声の大きさに、太一は驚き、杏と亜久津は呆れているようだ。
アキラは亜久津の呟いた声は聞こえなかったフリをして、家の中に入った。
「あぁ・・・・・アキラか?」
「はいっ!・・・って、深司はどこですか?」
「深司?橋の辺りに居なかったか?」
橘は不思議な表情をして、入ってきた4人を見る。
「誰もいなかったですよ?ねぇ、杏ちゃん。」
アキラは急に杏にふりかけた。
「え?・・・そうね。誰もいなかったわ。」
「・・・・・・おかしいな・・・。それに、この時間にはもう帰ってる時間だ・・・」
橘はそう言って、顔を顰めた。
杏はそんな橘を見て、懐かしそうに微笑んだ。
「兄さん、私よ。杏。」
「あぁ、わかってる。」
素っ気無い返事に、杏は顔を膨らませる。
だが、それもいつも通りの事だった。
「おい、その・・・深司とかいうヤツ、イブ姫じゃないのか?」
「「「「えっ!?」」」」
亜久津が急にそう言ったので、4人は揃って亜久津を見た。
「あぁ!?だから、その・・・深司とかいうヤツ、髪が肩ぐらいで・・・男の形してんだろ?」
橘は何も言わずに頷く。
「だったら、それがイブ姫だっつってんだよ。」
「えっ、でも亜久津さん・・イブ姫だとしたら、何でここに居るですか?不動町のお城からだいぶ離れてるですよ。」
太一は質問するが、何を話しているのか、頭の中は整理されていなかった。
「あ・・・もしかして、イブ姫のあの噂って本当なのかしら・・・」
杏がボソッと呟いた。
その呟きがその場にいる全員に聞こえたのか、一斉に杏を見る。
「ちょっ、ちょっと・・何よ、みんなして・・・。怖いんだけど・・・」
「イブ姫が・・・?」
「うん。ほら、ここの城主様のいい噂って、あまり聞かないでしょ?悪い噂ばかり。イブ姫のお父様だし・・・」
つまり、杏が言いたいのはその噂がもしかすると本当かも知れない言う事。
それのせいで、イブ姫は城を抜け出したと言う噂もとても多い。
「・・・・・・・そうか・・・」
橘は杏の話したこと全てを理解し、頷く。
「それより亜久津。お前は・・・なぜこの町に来たんだ?それも・・・山吹の姫まで連れて・・・」
「あぁ・・・・。こう言った場合は話したほうが良さそうだな。太一、お前もよく聞け。」
そういって、亜久津は一昨日の夜に夢屋で話した事をもう一度、全て話した。
「・・・そんな・・・・・・御爺さま、が・・・氷帝の・・・人と・・・?」
初めてその話を聞かされた太一は、呆気に取られたように言う。
氷帝の話は太一もたまに父親から聞かされていた。
それなのに、太一の祖父が氷帝と手を組んでいると聞けば、ショックをも受けるだろう。
「太一君の御爺さま・・えっと・・・」
「伴田だ。アイツはかなりの悪者だぜ?」
亜久津が杏の言葉に続ける。
アキラは、何かをとても言いたそうに口をパクパクさせている。
もちろん、当たり前の如く亜久津はそれを無視した。
太一は相変わらずショックを受けたように呆然としている。口が半開きになっている。
「おい、橘。ここ最近、変な奴等がお前の事つけてなかったか?」
亜久津は橘へと視線を向け、思い出したように聞く。
「・・・変な奴等・・・?・・・・・・深司に助けてもらった時だな。つけられていたと言うよりも、
見つかったと言ったほうが正しいのではないかな。」
「「「見つけられた?」」」
太一以外の3人の声が揃った。
「・・・橘、恐らくそいつらが氷帝の奴等だろう。」
亜久津が頭を抑えながらそう言った。
「・・・それじゃぁ・・・まさか、深司は・・・」
アキラが声を震わせながら、橘と亜久津の会話に入った。
2人の話を聞いたアキラの思考は、ある予想が頭の中を過って行った。
「深司は・・・・・・・・・・攫われちゃった・・・って事・・・?」
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後書き