ショックよりも、大きかった。
悔しさの方が、何もかもより、ずっとずっと。
自分にとってとても大切な人が。
自分の事を忘れてしまった。
Where're you・・・?
どうして、どうして?
キミの声は絶対誰にも聞こえないと思ってたのに・・・
何で?そんなにキミは、そのオレンジ色した髪の毛の人に
それだけ愛されてるの?大事に思われてるの?
僕は今、遠くから記憶が抜けたキミの世界を見ているんだ。
僕がキミの中に入る事は決して許された事じゃないから。
僕は、キミじゃないんだって、気付いてたのに・・・。
「・・・・・・深司、クン・・・・?」
『・・・・・あなた・・・誰、ですか・・・?』
深司は目を覚ました。
だが、変わりに全ての記憶を無くしていた。
学校の事、家の事、テニスの事・・・・・・・・千石の事、自分の事。
全てを忘れてしまっていた。
人の事だけではなく、自分の事すら思い出せないと言う。
千石は当然、ショックを受ける。
だが、ショックよりも、悔しさの方が断然大きい。
『深司クンの家にあの時迎えに行けばよかった』
『その前にあの日に深司クンを誘わなければ良かったんだ』
など。
そんな考えをした自分の愚かさに腹が立ち、頭を掻き毟る。
「・・・・・あの・・・?」
「えっ・・・あ・・・」
思い出した。今はまた、千石は深司の病室に居る。
「何でもないよ、気にしないで?」
微笑み、深司に無駄な心配をかけてしまった事を詫びる。
そして、また考え事をしようとする。
その部屋には橘も神尾も居る。
深司が目を覚ましたという事を聞いたのと同時に、記憶を失くしているとも聞いていた。
やはり3人とも、深司の記憶喪失に信じられないようだ。
紛れもない事実、なのにだ。
事実故に、信じたくない。気持ちは同じである。
「・・・そういえばさ、深司クンの両親は?」
「・・・え、と・・・」
深司の代わりに神尾が答えようとする。
千石は、深司の両親の事を聞いていないのだろうか。
会ったことがないのだろうか。
「深司の両親は・・・・深司の家には居ません。」
「・・・・・・えっ・・・?」
千石は思わず目を見開く。
「えっ・・・でも、さ。事故に遭ったって聞いたら、いくらなんでも駆けつけない?」
「そりゃそうですが・・・・でも・・・・・・」
神尾はそこまで言って、それ以上話す事はしなかった。
千石は、何も聞こうとしてこない。
深司は、自分の名前を今日のうちに思い出す事は無く、教えてもらった。
千石、橘、神尾のそれぞれの名前も。
3人の名前を、覚えるのがいつになるかもわからないが。
早く早く、深司の記憶が戻ってくれる事を祈るしか出来なかった。
ねぇ・・・キミ達はなんで一人の人にそんなに想いを入れてるの?
僕にはそんな気持ち、わからない。
キミ達に賭けてみようかな。
記憶の抜けた彼の記憶を、僕が決めた期間内で
取り戻せるのかなって。
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